相続税の配偶者控除はどれくらいまでが無税?その真実に迫る
そろそろ相続について考え始めるという時に、厄介なのが「相続税」です。
相続税は税額が高くなることも多く、できるだけ税負担を軽くしてあげたいもの。ましてやそれが現在働いておらず収入が心もとない高齢の配偶者ならなおさらです。
そこで今回は相続税の一般的知識と、配偶者控除についてご紹介します。
目次
1.相続税とは?
相続税とは、財産を相続した場合にかかる税金です。
亡くなった人から譲り受けた財産総額によってその額が決まります。
なお相続額が大きければ大きいほど相続税率は上がり、最大で55%もの相続税率がかかります。
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1-1.相続できる人
遺言書に記載されてある相続人、または法定相続人が相続できます。
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1-2.法定相続人とは?
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、実際に相続するか否かとは関係しません。
法定相続人には順位があり、以下の通りです。
第一順位:配偶者と子
第二順位:配偶者と父母(父母がいずれもなくなっている場合は祖父母)
第三順位:配偶者と兄弟姉妹
下位順位の相続人は、上位順位の相続人が死亡または相続放棄をしない限り相続権は発生しません。
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1-3.配偶者の法定相続分
遺言書がない場合、民法のルールに基づいて遺産が配分されます。
このルールを元に分配された遺残を、法定相続分と言います。
民法上のルールに則り定められた額ですので、実際に受け取ったかどうかは関係しません。
法定相続人:配偶者と子ども→配偶者の法定相続分:遺産総額の1/2
法定相続人:配偶者と父母→配偶者の法定相続分:遺産総額の2/3
法定相続人:配偶者と兄弟姉妹→配偶者の法定相続分:遺産総額の3/4
法定相続人:配偶者のみ→配偶者の法定相続分:遺産総額全額
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1-4.相続税の計算例
実際に相続税額を計算してみましょう。
遺産3億円・相続人は配偶者と子1人の合計2人とします。
■基礎控除額を計算する
遺産総額から控除できる「基礎控除額」を計算します。
基礎控除額=3,000万円+600万円×2人
これを計算して、基礎控除額は4,200万円です。
■相続税額を確定する
相続税額の計算は、法定相続人が法定相続分を相続したと仮定して行います。
遺産総額3億円-基礎控除額4,200万円=2億5,800万円
配偶者・子ともに法定相続分は1/2なので、
配偶者:2億5,800万円÷2×相続税率40%-1,700万円=3,460万円
子:2億5,800万円÷2×相続税率40%-1,700万円=3,460万円
3,460万円+3,460万円=6,920万円
6,920万円が相続税の総額です。
*国税庁相続税の速算表を参照し計算
2.相続税の配偶者控除とは?
配偶者特別控除とは、亡くなった配偶者の遺産を相続する際に、1億6000万円までの遺産に対して相続税がかからなくなるという制度です。
相続税にこのような大きな控除は他にありません。
配偶者控除が存在するのは、以下のような理由に基づきます。
・配偶者の老後の生活を保障するため
・配偶者の財産の形成における貢献があるため
・短期間に相続が2回発生し、同じ財産に2回相続税がかかることを回避するため
最も大きな理由は「老後の生活保障」です。わずかな年金で暮らす高齢の女性が、莫大な税金を支払うとその後の生活に窮する可能性があるからです。
また「財産形成への貢献」も大切な理由の一つ。通常、夫婦は協力して財産を形成します。夫が稼いだお金であっても、そのお金を稼ぐためには妻の目に見えない貢献があったためです。
3.1億6000万円までは相続税がかからない
配偶者控除制度を利用すると、相続する財産が1億6000万円までなら相続税がかかりません。この制度をフル活用できれば、老後の資金に困ることはなさそうですね。
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3-1.1億6000万円を超えた場合
配偶者の相続財産が1億6000万円を超えた場合は、法定相続分の金額次第で相続税額が変わります。
上記でご説明した配偶者の法定相続分を計算しましょう。
法定相続分が1億6000万円未満であれば、相続税がかかります。しかし法定相続分が1億6000万円を超えるなら、法定相続分の額までは相続税がかかりません。
つまり、
配偶者の課税対象の相続財産≦1億6000万円または配偶者の法定相続分
ということです。
もちろん1億6000万円も配偶者の法定相続分もオーバーして相続する場合は、相続税がかかります。
4.相続税の配偶者控除の条件について
メリットの大きい配偶者控除ですが、何もしなければ適用されません。配偶者控除を受けられる条件を確認しましょう。
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4-1.法律上の婚姻関係にある配偶者であること
婚姻届を提出している法律上の配偶者であることが必要です。事実婚などいわゆる内縁関係にある配偶者は、この控除を受けられません。そもそも戸籍の上で婚姻関係にない配偶者には財産の法定相続権がないからです。
なお贈与税の配偶者控除を受けるためには20年以上の婚姻期間が必要ですが、相続税の配偶者控除には婚姻期間の定めはありません。したがって婚姻した翌日に鬼籍に入ったとしても、遺された配偶者は配偶者控除を受けられます。
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4-2.申告期限までに遺産分割が確定していること
申告期限は、本人が亡くなったことを相続人が知った日の翌日から10ヶ月以内です。この間に遺産分割を確定させ、配偶者控除を受ける金額を計算しなければいけません。
相続人が少なく円満な家庭であれば揉めることはないのかもしれません。しかし相続人が多く全国に散っていたり、仲が悪くて相続で揉めてしまうと、申告期限までに計算できずに配偶者控除を受けられない可能性も出てきます。
申告期限までに遺産の分割協議が終わらない場合は、早めに法定相続分で計算し、相続税の申告書とともに、申告期限後3年以内の分割見込書を税務署に提出してください。
書類を提出することで、配偶者控除を受けられない事態を回避できます。
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4-3.相続税の申告書を提出していること
配偶者控除を受けることを記載した相続税の申告書を提出することが最後の条件です。
配偶者控除を利用して相続税が0円だったとしても申告書を提出しましょう。
配偶者控除を考慮して計算した相続税が0だったとしても無申告であった場合は、配偶者控除は受けられず、規定の相続税が科せられます。
相続税の支払いが発生しなくとも申告書だけは必ず提出しましょう。
5.相続税の配偶者控除の計算例
配偶者控除を利用してどれほどお得になるのか確認してみましょう。
上記と同じく遺産3億円・相続人は配偶者と子1人の合計2人とします。
相続税額は6,920万円です。
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5-1.相続人ごとの税額を確定する
計算した相続税額を、相続人ごとに割り振ります。
今回は法定相続分に基づき相続したと仮定します。
配偶者:6,920万円×1億5,000万円÷3億円=3,460万円
子:6,920万円×1億5,000万円÷3億円=3,460万円
ここから配偶者控除を差し引きます。
配偶者控除額の計算式は、
相続税の総額×1億5,000万円÷遺産総額
この例の場合ですと、
6,920万円×1億5,000万円÷3億円=3,460万円です
このケースでは配偶者が納める相続税は3,460万円-3,460万円=0円です。
本来なら納付すべき3,460万円の相続税が消え、全額手元に残ります。
なお子は配偶者控除が使えませんので、3,460万円の相続税の納付が必須です。
6.相続税の配偶者控除を受けるための必要書類
配偶者控除を受けるためには、相続税申告書の提出時に添付書類を同時に提出します。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・遺言書の写し(遺言書がある場合)
・遺産分割協議書の写し(分割協議を行った場合)
・印鑑証明書(分割協議を行った場合)
・申告期限後3年以内の分割見込書(分割協議が終わらない場合)
7.配偶者控除を受ける際の申告書の書き方
配偶者控除を受ける場合は、相続税の申告書に第5票を記入し添付します。
用紙の上半分「1一般の場合」と記載された枠の中に必要事項を記入してください。
イ配偶者の法定相続分
ロ計算した相続税控除額
ハ配偶者の相続税控除額
記入の際は遺産総額や相続税総額などの数字が必要になります。書き出す前に一度計算しておくとスムーズですよ。
用紙の下半分は使用しません。「2配偶者以外の人が農業相続人である場合」は、農業相続人がいる場合に使用します。何も書かずに空欄で提出しましょう。
8.相続税の配偶者控除における注意点
とても大きなメリットを享受できる配偶者控除ですが、知っておくべき注意点もいくつか存在します。
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8-1.二次相続における相続税額が増加する可能性
配偶者控除をフルに利用して相続税額を抑えた場合、その後配偶者が亡くなった場合の相続税が膨大に膨れる可能性があります。
夫が亡くなって数年後に妻が亡くなった場合、妻が譲り受けた遺産は子に相続されることになるでしょう。その時はもちろん配偶者控除が使えません。つまり夫が亡くなった際に配偶者控除を利用して配偶者に多めに遺産を相続させると、二次相続の際に子に多大な負担をかけるのです。
相続税の税率は一定ではなく、相続財産が多いほど税率も高くなります。将来子らが夫婦の遺産を全て受け継いだとしたら、逆に相続税が高くなるケースもあるということです。
ですから配偶者控除を受けると決定する前に、子への相続まで考えてシミュレーションすることが大切です。
ではいくら配偶者控除を使うのが最もお得かという問題になりますが、これは一概に言えることではありません。なぜなら、遺産総額や法定相続人数、相続前より配偶者が保有する財産、配偶者の所得の状況等で変わってくるからです。お得に遺産を分配したいとお考えの方は、税理士に相談されるのが良いでしょう。
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8-2.申告後に新たな遺産が見つかった場合
相続税の申告と納税が済んだ後に、新たに遺産が見つかった場合は修正申告を行います。修正申告を行う場合も、配偶者控除は受けられますので、再度計算し直しましょう。ただし、税務署からの指摘を受けて修正する場合は配偶者控除が受けられなくなる可能性もあります。名義預金、不動産や株式、ゴールドバーなどの計算漏れは税務署からの指摘を受けやすい遺産です。相続財産の漏れがないよう、最初の相続税の申告を慎重に進めましょう。
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8-3.配偶者が遺産分割前に死亡した場合
遺産分割協議が終わらないうちに配偶者が亡くなった場合でも、配偶者控除は発生します。この場合、配偶者が生きている前提で遺産分割を行います。生存している相続人の間で配偶者が受け取ることとなった遺産については、配偶者控除が利用できます。
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8-4.相続財産を隠していた場合
意図的に相続財産を隠し、相続税の申告をしなかった場合は、配偶者控除は受けられません。
大規模な相続が行われた場合、稀に2-3年後に税務調査が入ります。その調査で申告漏れの財産が見つかると、それまでに申告していた相続分も隠していた遺産についても配偶者控除は受けられなくなります。また、重加算税という追徴課税も課されるので、支払う税金が一気に増えてしまいます。税務署はあらゆる情報網を自在に閲覧できるため、相続財産の情報も握っています。したがって隠しおおせるものではありません。正直に申告するのが一番節税できるのです。
もし悪意なく申告漏れをしていた場合は配偶者控除の適用が認められ、修正申告を行うことで無事に相続税の支払いが完了します。
9.相続税の配偶者控除でお困りなら税理士に相談しよう
配偶者控除を使用して相続税を支払わなくて済んだとしても、相続勢の申告書は提出する義務があります。相続税の計算自体も大変ややこしく作成も困難です。また、二次相続まで考えた時に、正しい相続税額を計算するのは大変骨が折れるもの。配偶者控除を使用した方が良いのか、配偶者控除を使用するならいくらまでが最も損をせずにすむのかといったことは、専門家である税理士に相談するのがベストです。
10.まとめ
相続税の配偶者控除は、婚姻関係にある配偶者が受けられる大変お得な制度です。最大で1億6000万円までの遺産に対して相続税を支払わずにすみます。
ただし二次相続で相続税がかさんだり、申告書の提出が必要であったりと面倒なことも多いもの。
配偶者にお得に相続させたいとお考えであれば、税理士の手を借りると最も損をしない相続方法を実行できます。
畑会計事務所では、このような相続に関する疑問等に対し、サポートを行っております。
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